介護のはじまりガイド

介護離職を防ぐために — 仕事と介護を両立する制度と工夫

「親の介護が始まって、仕事を続けられるか不安になっている」「上司に相談したいけれど、どう伝えればいいかわからない」「退職するしか選択肢がないかも…」——そんな岐路に立っている方は、あなただけではありません。日本では年間約10万人が介護を理由に離職しています。しかし、仕事を続けながら介護をするための制度は、実は法律によって手厚く用意されています。「介護休業」「介護休暇」「短時間勤務」など、知っておくだけで選択肢がぐっと広がります。この記事では、両立を支える制度の全体像から、会社への相談の仕方、ケアマネジャーとの連携まで、実践的な方法を順を追って解説します。

公開: 2026-06-21

「介護離職」の現実 — 年10万人が辞めている

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

先月から母の介護が始まりました。今は在宅でなんとかやっているんですが、このまま仕事を続けられるかどうか心配で。同僚からは「辞めるしかないんじゃないか」と言われたりもして…。

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

その不安はよく分かります。ただ、結論から言うと「介護離職は最後の手段」です。退職は一度してしまうと取り戻すのが難しく、多くの場合、仕事を続ける方が本人にとっても家族にとっても長期的にプラスになります。まず現状を整理してみましょう。

介護離職の現状(厚生労働省 令和4年就業構造基本調査)
  • 年間約10.6万人が介護・看護を理由に離職(2022年)
  • 離職者の約7割が女性、年代は40〜50代が中心
  • 離職理由の上位は「仕事と介護の両立が難しい」「精神的・体力的な限界」
  • 離職後に再就職できた人は約6割、収入は平均30〜40%減という調査結果もある
佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

仕事を辞めた後に再就職が難しいというのは、確かに不安ですね。退職したら介護に専念できるかと思っていたんですが…。

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

退職後の現実として、介護が終わるまで数年〜10年以上かかるケースも珍しくありません。収入が途絶えた状態で長期の介護を続けると、今度は介護者自身が経済的に追い詰められてしまいます。「仕事を続けながら、使えるサービスと制度を最大限に活用する」というアプローチを、まずは検討してみてください。

両立を支える6つの制度

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

仕事と介護を両立するための制度があると聞いたことはあるんですが、「介護休業」くらいしか知らなくて。他にも使える制度があるんですか?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

「育児・介護休業法」には、仕事を続けながら介護ができるよう、6種類の制度が設けられています。一度にすべてを使う必要はなく、状況に応じて組み合わせるのがポイントです。

介護と仕事を両立するための6つの制度(育児・介護休業法)
制度名内容・期間賃金の扱い主な対象
介護休業対象家族1人につき通算93日、3回まで分割取得可無給(雇用保険から給付金あり)要介護状態の家族を介護する労働者
介護休暇年5日(対象家族が2人以上は年10日)、1日または半日単位で取得可無給(会社によって有給の場合も)要介護状態の家族を介護する労働者
所定労働時間の短縮等(短時間勤務)連続する3年間以上、週の所定労働時間を短縮できる(日数変更・フレックス等も含む)短縮した時間分は減額要介護状態の家族を介護する労働者
所定外労働の制限申請すれば残業を断れる(期間制限なし)影響なし(残業代が出ないだけ)要介護状態の家族を介護する労働者
時間外労働の制限1か月24時間・年150時間を超える時間外労働を拒否できる影響なし(超過分は免除)要介護状態の家族を介護する労働者
深夜業の制限深夜帯(午後10時〜午前5時)の労働を断れる深夜割増がなくなる要介護状態の家族を介護する労働者

※ 「要介護状態」とは、負傷・疾病・身体上・精神上の障害により、2週間以上にわたって常時介護を必要とする状態。介護保険の要介護認定を受けていることは必須ではありません。出典:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」(令和6年版)

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

6種類もあるんですね。「短時間勤務」は子育て中の同僚が使っているのを見たことがありますが、介護でも使えるんですか?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

はい、介護でも使えます。育児だと子どもが3歳になるまでという制限がありますが、介護の場合は「連続する3年間以上」と定められていて、より柔軟に設計されています。在宅ワークや始業・終業時間の変更なども選択肢に含まれます。「デイサービスへの送り出しが間に合うように始業を1時間遅らせる」という使い方も可能です。

介護休業 — 通算93日まで取得できる

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

介護休業について、もう少し詳しく教えてもらえますか? 93日って、かなり長い印象を受けますが…。

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

介護休業は「介護の体制を整えるための時間」と位置づけられています。93日連続して休む必要はなく、3回に分けて取得できます。たとえば「入院直後に30日、退院後の在宅体制が整うまでに30日、施設探しのときに33日」というように使い分けることもできます。

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

休業中の収入はどうなるんでしょう? 無給だと家計が心配で…。

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

雇用保険から「介護休業給付金」が支給されます。休業開始前の賃金の67%が給付されるので、無収入にはなりません。手続きは「会社を通じてハローワークに申請」する流れです。

介護休業給付金の計算例(月給30万円の場合)
月給(休業前)給付率給付額(月額)自己負担分(休業中の概算)
20万円67%約13.4万円約6.6万円(社会保険料は別途)
30万円67%約20.1万円約9.9万円(社会保険料は別途)
40万円67%約26.8万円約13.2万円(社会保険料は別途)
50万円67%約33.5万円(上限あり)上限を超える部分は支給なし

※ 給付金には上限額があります(2024年8月現在:支給限度額は賃金日額の上限に連動)。休業中も社会保険料(健康保険・厚生年金)の負担は継続します。給付金の受給には雇用保険の被保険者期間が2年以上必要(例外あり)。出典:厚生労働省「介護休業給付」

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

申請の手続きは自分でハローワークに行く必要があるんですか?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

多くの場合は会社(人事・総務)が代行して申請してくれます。「介護休業を取りたい」と会社に申し出れば、必要な書類と手続きを案内してもらえます。ハローワークへの直接申請は、会社経由で手続きできない場合の例外です。まずは会社の人事担当に「介護休業給付金の申請はどう進めますか?」と確認するのが最初の一歩です。

会社への伝え方 — いつ・誰に・何を相談する

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

上司に介護のことを相談したいんですが、正直なところ「評価に影響するんじゃないか」と不安で、なかなか言い出せていなくて。

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

その不安はよく分かります。ただ、法律上は介護を理由とした不利益取扱いは禁止されています(育児・介護休業法第16条の4)。「制度を使ったから査定を下げる」「部署異動させる」といった対応は違法です。権利として使えるものですので、必要以上に恐れなくて大丈夫です。

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

それは知りませんでした。では、誰に・どう相談すればいいんでしょうか?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

相談のルートは①直属の上司 → ②人事担当 → ③産業医(いる場合)の順が一般的です。最初の相談では、すべてを完璧に伝えようとしなくて大丈夫です。「介護が必要な状況になった」「育児・介護休業法の制度を利用したい」と伝えれば、会社側で手続きを案内してくれます。

上司への相談で伝える3つのポイント
  • 現状の説明: 要介護度(またはおおよその状態)、当面必要なこと(通院の付き添い、デイサービスの送迎など)
  • 活用したい制度: 「介護休業を〇月〇日から取得したい」「しばらく短時間勤務を使いたい」など、具体的に伝える
  • 業務への配慮: 引き継ぎが必要な業務のリスト、在宅勤務や時間変更の希望など、代替案もあわせて提示するとスムーズ
佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

相談するタイミングは、できるだけ早い方がいいですか?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

できれば「介護が始まったと分かった時点」で早めに伝えることをおすすめします。介護はある日突然始まることが多く、早く伝えるほど会社側も対応しやすくなります。「まだ休業が必要かどうか分からない」という段階でも、「介護の状況になった」と一言伝えておくだけで十分です。完璧な計画を立ててから相談しようとすると、後手に回りがちです。

ケアマネと職場、両方を味方につける

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

ケアマネジャーさんに相談するとき、仕事のことも話した方がいいんでしょうか?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

必ず伝えてください。「フルタイムで働いている」「平日の日中は対応できない」という情報は、ケアプランを組むうえでとても重要です。仕事を続けることを前提にケアプランを設計してもらうことで、無理のない在宅介護の仕組みが作れます。

仕事を続ける場合のサービス組み合わせ例
  • 平日の日中: デイサービスに通ってもらう(週3〜5日)→ 介護者が仕事に集中できる時間を確保
  • 帰宅が遅い日: 訪問介護(ヘルパー)に夕食の準備と服薬確認をお願いする
  • 介護者が出張・繁忙期: ショートステイを事前予約して宿泊してもらう
  • 医療的なケアが必要な場合: 訪問看護を組み合わせて、看護師に定期チェックを依頼する
  • → 複数のサービスを組み合わせても、区分支給限度基準額の範囲内であれば1〜3割の自己負担で利用できます
佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

きょうだいがいるんですが、介護の分担についてはどうすればいいでしょうか?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

きょうだいがいる場合は、「誰が何を担当するか」を早い段階で話し合っておくことをおすすめします。「近くに住む人が日常の対応、離れて住む人は費用の一部を負担・週末に帰省」というような役割分担が一般的です。ケアマネジャーを交えた家族会議を設けてもらうこともできます。一人で全部抱え込もうとすると、仕事との両立が難しくなります。

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

地域包括支援センターというのも相談に乗ってくれると聞きましたが、どんなことを相談できるんでしょう?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

地域包括支援センターは、介護全般の「何でも相談窓口」です。「まだ要介護認定を受けていないが介護が必要になりそう」「ケアマネジャーの変更を考えている」「仕事と介護の両立について話を聞いてほしい」など、どんな段階でも相談できます。お住まいの市区町村に問い合わせると、担当の地域包括支援センターを教えてもらえます。

退職しか選択肢がないと感じたら

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

制度の話はよく分かりました。それでも、体力的にも精神的にも限界で、「もう辞めるしかないかな」と思うこともあって…。

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

その気持ちは否定できません。ただ、退職を決める前に「まだ試していないことがないか」を一度確認してみてください。退職後に「あの制度を使えばよかった」と思っても、すでに選択肢を失ってしまっていることがあります。

退職を考える前に確認したい6つのチェックリスト
  • 介護休業(最大93日)を取得したか? → まだなら、まず休業して体制を整える時間を作る
  • 短時間勤務・残業免除を申請したか? → 勤務時間を減らすだけで続けられる可能性がある
  • 在宅勤務・フレックスタイムを相談したか? → 会社の制度として使える場合がある
  • デイサービス・ショートステイをフル活用しているか? → サービスの組み合わせで介護時間を減らせる
  • きょうだい・配偶者と分担を話し合ったか? → 一人で抱え込んでいないか確認
  • 転職・職種変更を検討したか? → 同じ職場での継続が難しくても、別の会社・働き方で両立できる場合もある
佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

退職した場合、その後の生活はどうなるんでしょうか?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

退職後の現実として、介護は終わりが見通せないという点が一番の課題です。収入が途絶えた状態で数年の介護を続けると、自分自身の老後の資産形成もできなくなります。40〜50代での介護離職は再就職の難易度が高く、雇用形態や収入が下がるケースが多いことも把握しておいてください。「どうしても退職しかない」という結論になる場合でも、制度をすべて試した後で判断するようにしてください。

佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

まず制度を使い切ることが大事なんですね。具体的に何から始めればいいでしょう?

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

最初のアクションは「ケアマネジャーへの相談」と「会社への申し出」を同時に進めることです。ケアマネに「仕事を続けたい、介護サービスを最大限使いたい」と伝え、会社には「育児・介護休業法の制度を使いたい」と申し出る。この二つを並行して進めることで、両立の土台ができます。まだケアマネジャーが決まっていなければ、地域包括支援センターへの相談から始めましょう。

次の一歩

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

仕事と介護の両立には、「使えるサービスを知る」「会社に伝える」「身近な人と分担する」の三つが土台になります。以下の記事も、次のステップの参考にしてください。

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佐藤 ゆみこ(親の介護を検討中の家族)
佐藤 ゆみこ
親の介護を検討中の家族

制度のことも、ケアマネへの相談の仕方も、具体的によく分かりました。まずは会社の人事に相談しながら、ケアマネと在宅サービスの組み合わせを考えてみます。

林 ちあき(まちの介護施設 編集部)
林 ちあき
まちの介護施設 編集部

ぜひ、一人で抱え込まないでください。「使える制度を使い、使えるサービスを使う」—— それが、長く仕事と介護を両立させる一番のコツです。

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出典