介護のはじまりガイド
認知症の人に「してはいけない」こと — 介護拒否を防ぐ接し方
「何を言っても怒られる」「入浴を拒否されて困っている」「同じことを何度も聞かれてつい怒鳴ってしまった」——認知症の親を介護していると、こんな場面に直面することがあります。実は、介護拒否や暴言の多くは、私たちの「接し方」が引き金になっていることが少なくありません。認知症の人は、記憶が失われていても感情は豊かに生きています。本人のプライドや不安に気づかず、急かしたり否定したりすることが、拒否や混乱を生み出しているケースがとても多いのです。この記事では、認知症の人への「してはいけない対応」と、代わりにどう接すればよいかを、具体的な場面ごとにご説明します。
公開: 2026-06-21
「してはいけない」を知る前に — 認知症の人の世界を理解する
父が認知症と診断されてから、何度も同じことを聞いてきたり、急に怒り出したりするようになりました。どう接したらいいか、正直わからなくなってしまって……。
認知症の接し方に悩まれているんですね。まず大切なのは、認知症の人が「どんな世界を生きているか」を知ることです。認知症では、新しい出来事を記憶に刻む力が失われます。「さっき話した内容」が消えるため、同じことを繰り返し聞くのは、本人にとっては「初めて聞く」感覚なのです。
本人も、自分が忘れていることに気づいているんでしょうか?
多くの場合、「自分がおかしい」という不安や恐怖は感じています。「なぜかうまくできない」「周囲の反応がいつもと違う」という感覚が蓄積され、それが不安や焦り、時に怒りとなって表れます。認知症の人が一番つらいのは、実は本人です。行動には必ず理由があり、私たちの接し方次第で、その不安は和らぎも、大きくもなります。
- 記憶が抜ける = 不安の連続: 新しいことが記憶に残らないため、毎日が「わからないことだらけ」の世界。安心できる環境と人が何より重要です。
- 感情の記憶は最後まで残る: 出来事の記憶は消えても、「怖かった」「嫌だった」という感情の記憶は残りやすいと言われています。接し方の感情的な質が大切です。
- 行動には必ず理由がある: 徘徊・暴言・拒否などの「問題行動」に見えることも、本人にとっては理由のある行動です。「なぜそうするのか」を考える視点が解決の糸口になります。
絶対に避けたいNG対応7つ
具体的に「これをやってはいけない」という対応はどんなことでしょうか? 正直、毎日の介護の中で、つい怒鳴ってしまったりもしていて……。
介護する方が追い詰められてしまうのは当然のことで、自分を責めすぎないでください。ただ、認知症の方への接し方には「これをすると悪化しやすい」という典型的なパターンがあります。7つにまとめましたので、確認してみてください。
| NG対応 | なぜダメか | 代わりの対応 |
|---|---|---|
| ① 否定する・訂正する 「そんなこと言ってない」「さっき聞いたでしょ」 | 本人は本当にそう感じているため、否定されると混乱と不安が増す。信頼関係が壊れる原因に。 | 「そうでしたね」と一度受け止める。事実の訂正より気持ちへの共感を優先する。 |
| ② 急かす・せかす 「早くして」「なんでそんなに遅いの」 | 認知症では処理速度が落ちている。急かされると焦りからパニックや拒否につながりやすい。 | 時間に余裕を持ったスケジュールにし、「ゆっくりでいいですよ」と声をかける。 |
| ③ 子供扱いする 「わかった? わかった?」「えらいねえ」の連呼 | 長年生きてきた大人としてのプライドを傷つける。信頼感の喪失と抵抗感を生む。 | 普通の大人に話しかける口調を維持する。ほめる際も「助かりました」など対等な言葉で。 |
| ④ 嘘をついていると責める・指摘する 「お財布はそこにあるじゃないか」「物盗られ妄想だ」 | 本人はそう感じており「嘘をついている」わけではない。責めると強い怒りや不信感につながる。 | 「一緒に探しましょう」と共感しながら行動する。見つかっても「隠してた」と指摘しない。 |
| ⑤ 大声で叱る・怒鳴る 「また同じことを!」「何回言ったらわかるの!」 | 怖かった感情の記憶は残るため、その人・その場所に強い拒否感を持つようになる。 | 低く穏やかな声でゆっくり話す。叱りたくなったらその場を一度離れる。 |
| ⑥ 無視する・話しかけられても返事をしない | 孤立感と不安が急増する。繰り返しの呼びかけやパニック的行動につながりやすい。 | 手が離せないときも「今ちょっと待ってね」と一声かける。アイコンタクトだけでも有効。 |
| ⑦ 行動を力で制限する・強引に連れて行く 「出かけちゃダメ」と腕をつかむ、無理やり浴室へ連れて行く等 | 恐怖感と拒否感が強まり、以降の介護が困難になる。虐待と認定されるリスクもある。 | 理由を聞き、本人の気持ちを受け止めてから別の行動に誘導する(「散歩の前にご飯にしませんか」等)。 |
※ 上記の対応は、介護する側が悪意を持って行うものではなく、疲労や焦りの中でつい出てしまうことが多いです。自分を責めすぎず、「なるべく減らしていく」という視点で取り組んでください。
「子供扱いしてはいけない」というのは気をつけていなかったかもしれません。よかれと思って「えらいね」と言っていました……。
気持ちはとても伝わります。認知症になっても、長年生きてきた大人としてのプライドは残っています。褒めること自体は大切なのですが、「対等な立場での感謝」の言葉が響きやすいです。「ありがとう、助かりました」「さすがですね」のような言葉を意識してみてください。
介護拒否が起きる本当の理由
母が入浴を断固拒否するようになりました。毎日格闘していて、もうどうしたらいいか……。なぜ嫌がるのでしょうか?
入浴拒否は認知症介護で最も多い困りごとの一つです。「入浴が嫌い」というより、本人には別の理由があることがほとんどです。「裸になることへの恥ずかしさ」「段差や濡れた床への恐怖」「急に知らない人に体を触られる不安」など、合理的な理由が背景にあります。
| 拒否されたシーン | 本人視点で考えられる理由 | 対応のヒント |
|---|---|---|
| 入浴拒否 「お風呂に入らない」「脱がない」 | 裸になることへの羞恥心、濡れた床や段差への恐怖、「なぜ入らなければいけないか」がわからない | お風呂の前に「温かいですよ」と先に入室する。「背中流しましょうか」と声かけを変える。入浴剤や好きな音楽を活用。 |
| 服薬拒否 「飲まない」「毒だ」 | 薬への不信感、「なぜ飲むのか」の記憶がない、錠剤が飲み込みにくい | 主治医に相談して薬の形状変更(粉薬・ゼリー状)を検討。食後の流れに組み込む。「体にいいもの」と伝える。 |
| 食事拒否 「食べない」「毒が入っている」 | 食欲がない、義歯が合わない、「誰が作ったかわからない」という不信感、うつ症状 | 本人の好きだった食べ物から試す。一緒に食卓に座って同じものを食べる。料理の工程を見せて安心感を作る。 |
| 通院拒否 「病院には行かない」「私は病気じゃない」 | 「病気と認めたくない」というプライド、病院への恐怖・過去の嫌な経験、何のために行くかわからない | 「薬をもらいに行く」「先生に会いに行く」と目的を変える。主治医に状況を話して外来での対応を工夫してもらう。 |
| 着替え拒否 「着替えない」「今の服で十分だ」 | 「なぜ着替えなければいけないか」がわからない、慣れた服への執着、着脱のしにくさ | 「外出しますよ」など行動と結びつける。着替えやすいデザイン(前開き・マジックテープ)に変える。本人が選べるよう2択で提示する。 |
※ 拒否の背景は一人ひとり異なります。「なぜこの人は拒否するのか」を観察・記録することが、個別の対応策を見つける近道です。
入浴の段差への恐怖とか、羞恥心とか、言われてみれば当然のことですね。こちらが当たり前と思っていることが、本人には怖いことになっているんですね。
そのとおりです。「なぜ当然のことを拒否するのか」ではなく「本人の視点から見ると何が怖いのか」に視点を切り替えると、対応の糸口が見えてきます。記録をつけて「どんな日に拒否が多いか」のパターンをつかむことも、長期的に効果的です。
接し方の基本5原則
NG対応を減らしながら、普段からどんなことを心がけておけばいいですか? 基本的な原則を教えてほしいです。
日々の接し方の「軸」になる5つの原則をまとめました。すべてを一度にできなくて構いません。まず1〜2つ意識するところから始めてみてください。
- ① プライドを尊重する: 「○○さん」と名前で呼ぶ。判断や意見を求める。「ありがとう」「助かりました」の言葉を大切にする。長年生きてきた大人として接する。
- ② 否定しない・訂正しない: 記憶の誤りや勘違いを正面から訂正しない。「そうでしたね」「そういえばそうかも」と受け止めてから、自然に別の話題や行動に誘う。
- ③ 本人のペースに合わせる: 急かさない、先を読んで動かない。「ゆっくりでいいですよ」という姿勢を言葉と行動で示す。時間に余裕のある声かけを心がける。
- ④ 穏やかな声と笑顔を意識する: 出来事の記憶が消えても「怖かった」「嬉しかった」という感情の記憶は残りやすいとされています。穏やかな雰囲気は安心感につながります。
- ⑤ 適切なスキンシップを取り入れる: 手を握る、背中に触れるなど、本人が嫌がらない範囲でのスキンシップは安心感を高めます。ただし、突然触れると驚かせるため、声をかけながら正面から近づく。
「感情の記憶は残る」というのは、逆に言えば、優しく接し続けることで「この人は安心できる」という感覚が積み重なっていくということですよね?
そのとおりです。「ここにいると穏やかでいられる」「この人は安心できる」という感覚は、繰り返しの積み重ねで育まれます。毎日の小さな声かけと笑顔が、長期的には介護拒否を減らす土台になります。
シーン別の具体的な対応例
よくある場面での「NG例」と「OK例」を、もっと具体的に知りたいです。「同じ話を何度も繰り返す」への対応がとくに難しくて……。
具体的なシーン別の対応例をまとめました。「NG例」はつい出てしまいやすい言葉です。まず「NG例に近い言葉を言っていないか」を確認するだけでも、大きな変化につながります。
| シーン | NG例(避けたい対応) | OK例(代わりにできること) |
|---|---|---|
| 同じ話を何度も繰り返す 「今日、娘が来るんだけど」を1時間に5回言う | 「さっきも言ったでしょ」「何回言うの」と遮る。無視して別の作業を続ける。 | 毎回「そうですね、楽しみですね」と初めて聞くように受け止める。「何時ごろ来ますか?」と会話を広げる。 |
| 徘徊しようとする 夕方になると「家に帰る」と外に出ようとする | 「ここが家でしょ」と強く引き止める。玄関に鍵をかけて閉じ込める。 | 「ちょっとお茶を飲んでいきませんか」「一緒に行きましょう」と誘う。夕方の不安が高まる「夕暮れ症候群」の可能性を念頭に。軽い運動や散歩で先に発散させることも有効。 |
| 夜間不穏(夜中に騒ぐ・眠れない) 深夜に「助けて」と叫ぶ、起き出して歩き回る | 「うるさい」「眠れないじゃないか」と怒鳴る。薬で無理に眠らせようとする。 | 「大丈夫ですよ、ここは安全です」と穏やかに声をかける。明るい照明でそっと顔を見せて安心させる。日中の活動量を増やして生活リズムを整えることが根本対策に。 |
| 物盗られ妄想 「財布を盗られた」「嫁が隠した」と訴える | 「盗んでいない」「財布はそこにあるじゃないか」と論理的に否定する。 | 「一緒に探しましょう」と行動する。見つかっても「ほら言ったでしょ」と指摘しない。本人が「大切なもの」を置く専用の場所を決めておく。 |
| 失禁(排泄の失敗) 間に合わずに漏れてしまう・トイレの場所がわからない | 「また!」と叱る。本人の前で大きくため息をつく。汚れた衣類を見せながら責める。 | 「大丈夫ですよ、着替えましょう」と穏やかに対応する。表情や行動(そわそわする、股間を触るなど)からトイレのタイミングを読む。トイレへの誘導を定期的に(2〜3時間おき)行う。 |
※ いずれの対応も、「正解の言葉を言えたかどうか」よりも「穏やかに関われたかどうか」の方が重要です。声のトーンと表情が伝わります。
「言葉より声のトーンや表情が伝わる」というのは、逆に焦っているときは伝わってしまうということですよね。
そうです。認知症の人は言語による情報処理は苦手でも、非言語のコミュニケーション(表情・声のトーン・体の動き)はとても敏感です。介護する側が焦っている、不快に思っているという感情は伝わりやすいです。だからこそ、介護者自身のメンタルケアも介護の質に直結します。
介護者自身を守る — 限界を認める勇気
正直、毎日介護をしながら穏やかに接し続けることが難しくなってきました。自分でも「怒鳴ってしまった」と後悔することが増えて……。
それはとても正直な告白だと思います。24時間365日、ひとりで穏やかに介護し続けることは、人間には不可能に近いことです。怒鳴ってしまうのは、あなたが追い詰められているサインです。介護者自身が倒れてしまったら、介護は続けられません。
- 介護疲れは「虐待」につながるリスクがある: 厚生労働省の調査では、高齢者虐待の主な加害者は同居の家族(息子・娘・配偶者)です。悪意ではなく、介護疲れや追い詰められた状況が背景にあるケースが多い。
- 「つい怒鳴った」は危険信号: 感情のコントロールが難しくなってきたと感じたら、ひとりで抱え込まず、専門家や支援機関に相談することが先決です。
- 介護者自身の健康悪化: 介護うつ、体の疲弊、社会的孤立は介護者に多く見られます。本人より先に介護者が倒れてしまうケースも珍しくありません。
- 「助けを求めること」は逃げではない: サービスを使うことも、施設を検討することも、介護者を守るための当然の選択肢です。「最後まで自分でやらなければ」という思い込みを手放してください。
ショートステイやデイサービスを使うことへの罪悪感があって、なかなか頼めないんです。
その罪悪感は非常に多くの介護者が感じるものです。ただ、デイサービスやショートステイは「親を手放すこと」ではありません。本人にとっても外に出て人と交わることが刺激になり、生活のリズムが整います。介護者が休息を取ることで、在宅介護を長く続けられます。家族だけで抱え込むことが、かえって本人のためにならない場合もあります。
地域包括支援センターというところに相談できるとは聞いているんですが、敷居が高くて……。
地域包括支援センターへの相談は、全く恥ずかしいことではありません。むしろ、早めに相談することで「こんな選択肢があったのか」と問題が解決することが多いです。電話一本から相談できますし、無料です。「どう接したらいいか」という相談でも、専門の社会福祉士や主任ケアマネジャーが丁寧に対応してくれます。地域の相談先まとめもあわせてご覧ください。
- デイサービス(通所介護): 日中だけ施設に通ってもらうことで、介護者が休める時間を確保できる。本人の社会参加にもなる。
- ショートステイ(短期入所): 数日〜数週間、施設で過ごしてもらうサービス。介護者が体調を崩したとき、冠婚葬祭のとき、どうしても無理なときに使える。ショートステイの詳細はこちら
- 認知症の家族会・介護者の集い: 同じ立場の人と話すことで、孤立感が和らぐ。市区町村や認知症の人と家族の会(NPO)が主催する集いが各地にある。
- 地域包括支援センターへの相談: 市区町村に必ず設置されており、相談は無料。介護保険の手続きから、家族のメンタルサポートまで幅広く対応してくれる。
次の一歩 — まず「知る」ことから始める
認知症の接し方は、すぐに「完璧にできるようになる」ものではありません。毎日の小さな実践と、「今日は穏やかに話せた」「今日はちょっとうまくいかなかった」という振り返りの積み重ねです。一人で抱え込まず、使える制度とサービスをうまく組み合わせながら、無理なく続けることが大切です。
今日学んだことを少しずつ実践してみます。まず「否定しない」「急かさない」ことから意識してみます。次は施設についても少し調べておこうかと思っています。
関連するガイド
出典
- 厚生労働省「令和4年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」 (参照: 2026-06-21)
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」 (参照: 2026-06-21)
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会 公式サイト (参照: 2026-06-21)
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(令和元年6月18日) (参照: 2026-06-21)