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認知症とは? — 種類・症状・進行の特徴をやさしく解説
「最近、父が同じことを何度も聞く」「母が日付や曜日を間違えることが増えた」——そんな変化に気づき、「もしかして認知症?」と不安になっている方は多いと思います。認知症は「単なる物忘れ」とは異なる脳の病気で、症状や進行の仕方はタイプによってかなり違います。この記事では、認知症の定義から主な4つのタイプ、症状の種類、進行の段階、そして診断までの流れまで、家族として知っておきたい基本を整理します。まず「全体像を知りたい」という段階の方に読んでいただきたい内容です。
公開: 2026-06-21
認知症とは — 「物忘れ」とは違う、脳の病気
80歳の母が最近、同じことを何度も聞いたり、昨日の夕食のことを覚えていなかったりするんです。これって認知症なんでしょうか?
「物忘れ」と「認知症による記憶障害」は、区別して考えることが大切です。加齢による物忘れは、体験の一部を忘れる(夕食のメニューが思い出せない)のに対し、認知症による記憶障害は体験そのものを忘れます(「昨日の夕食を食べた」という事実ごと消えてしまう)。ヒントを出せば思い出せるかどうかも、判断のポイントになります。
では認知症というのは、医学的にはどういう状態のことを指すんでしょう?
認知症とは、脳の神経細胞が傷んだり死んだりすることで認知機能(記憶・判断・見当識など)が低下し、日常生活に支障が出ている状態のことです。記憶が悪くなっても日常生活に問題がない「軽度認知障害(MCI)」とは区別されます。診断は専門医(神経内科・精神科・物忘れ外来)が行います。
- 加齢による物忘れ: 体験の一部を忘れる(ヒントで思い出せる)/ 日常生活に支障なし / 本人が忘れたことを自覚している
- 認知症による記憶障害: 体験そのものを忘れる(ヒントでも思い出せない)/ 日常生活に支障が出る / 本人が忘れたことを認識できない場合がある
- 「物忘れがひどくなった」と感じたら、まずはかかりつけ医または物忘れ外来に相談することをおすすめします
主な4タイプ — 原因と症状の違い
認知症にも種類があると聞きました。タイプによって症状が違うんですか?
はい、大きく4つのタイプがあり、原因となる脳の変化が異なるため、症状の現れ方や進み方もかなり違います。もっとも多いのはアルツハイマー型認知症で、認知症全体の約70%を占めるといわれています(出典: 厚生労働省「認知症施策推進大綱」2019年)。
| タイプ | 原因・特徴 | 主な初期症状 | 進行の傾向 |
|---|---|---|---|
| アルツハイマー型認知症(約70%) | アミロイドβなどの異常タンパク質が脳に蓄積し、神経細胞が徐々に死滅する | 最近のことを忘れる(エピソード記憶障害)、日付・場所の見当識が低下 | ゆっくりと数年〜十数年かけて進行。初期から記憶障害が顕著 |
| 脳血管性認知症(約20%) | 脳梗塞・脳出血などで脳の血管が詰まったり破れたりし、神経細胞が傷む | 障害を受けた部位によって症状が異なる。感情のコントロールが難しくなることも | 脳血管障害のたびに階段状に悪化することが多い。良いときと悪いときの差が出やすい |
| レビー小体型認知症 | レビー小体という異常なタンパク質が脳に蓄積。アルツハイマー型と混在することも | リアルな幻視(人や虫が見える)、パーキンソン症状(手の震え・小刻み歩行)、睡眠中に大声を出す | 進行は個人差が大きい。薬の副作用が強く出やすい(抗精神病薬の使用に注意) |
| 前頭側頭型認知症 | 前頭葉・側頭葉が萎縮する。比較的若い年代(65歳未満)に発症することも | 性格変化(礼儀を忘れる・万引きなど)、常同行動(同じルートを歩く)、言葉が出なくなる | 行動や性格の変化が先行することが多く、初期は記憶障害が目立たない |
※ 割合は概算であり、複数のタイプが混在する「混合型認知症」も少なくありません。出典: 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(2019年)
アルツハイマー型と脳血管性認知症では、対応方法も違ってくるんでしょうか?
はい、タイプによって薬物療法や生活上の対応が変わってきます。たとえば脳血管性認知症は脳血管障害の再発予防(血圧管理・血液をさらさらにする薬など)が重要で、レビー小体型は特定の薬が過剰に効いてしまうことがあるため、処方の際に担当医に正確な診断を伝えることが大切です。診断を正確に受けることが、適切な治療と介護につながります。
中核症状と行動・心理症状(BPSD)
「BPSDがつらい」という言葉を見たんですが、BPSDとはどういう症状のことですか?
認知症の症状は2つに分けて考えると整理しやすいです。中核症状は脳の神経細胞が傷んだことで直接起こる症状で、すべての認知症に共通して見られます。一方、BPSD(行動・心理症状)は中核症状をベースに、環境やストレス・人間関係などが影響して二次的に現れる症状です。BPSDは適切なケアや環境の工夫で軽減できることが多い点が重要です。
| 分類 | 主な症状例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 中核症状(すべての認知症に共通) | 記憶障害(最近のことを忘れる)/ 見当識障害(日付・場所・人が分からない)/ 判断力・理解力の低下 / 失語(言葉が出ない)/ 失行(道具の使い方が分からない)/ 失認(見えているのに認識できない) | 脳の神経細胞の損傷が直接の原因。根本的な回復は難しいが、薬物療法や認知リハビリで進行を遅らせることが可能 |
| BPSD(行動・心理症状) | 徘徊(外に出て帰れなくなる)/ 暴言・暴力 / 被害妄想(「財布を盗まれた」など)/ 幻覚(幻視・幻聴)/ 抑うつ・無気力 / 介護拒否 / 不眠 / 過食・異食 | 中核症状に加え、環境・ストレス・人間関係・身体的不調などが影響して出現。ケアの工夫や環境調整で改善できるケースが多い |
※ BPSDは認知症の方全員に現れるわけではありません。本人の不安や不快感がBPSDの引き金になることが多く、「なぜそう感じているか」を理解しようとするケアが重要です。
「財布を盗まれた」という被害妄想は、どう対応すればいいんでしょう? 否定しても怒るし、肯定するのも違う気がして……。
「物盗られ妄想」はアルツハイマー型に多く見られる代表的なBPSDです。「盗っていない」と否定すると本人は傷つき、かえって関係が悪化することがあります。「一緒に探しましょう」と声をかけて行動を共にする、「大切な物だったね」と感情に寄り添うなど、否定も肯定もせず感情を受け止めるアプローチが基本です。在宅介護では、担当ケアマネや認知症の専門医に相談するのがおすすめです。
BPSDは介護する側にとっても、かなりの負担になりますよね。
そうです。BPSDは「本人の辛さ」であると同時に「介護者の負担」に直結します。BPSDがひどくなったタイミングは、ケアの方法の見直しや専門家への相談のサインです。一人で抱え込まず、地域包括支援センターや認知症の専門医に相談することが、長く介護を続けるために大切です。
進行の段階 — 軽度・中等度・重度
認知症はどんなペースで進むんでしょう? 今は物忘れが目立つ程度なんですが、これからどうなるのか、心構えをしておきたいのです。
一般的に軽度・中等度・重度の3段階で考えます。ただし進行の速さは個人差が非常に大きく、タイプ・生活環境・治療・本人の健康状態によっても変わります。「何年で重度になる」という断定は難しいですが、段階ごとにどんな支援が必要になるかをあらかじめ知っておくと、準備がしやすくなります。
| 段階 | 認知機能検査の目安(MMSEスコア) | 日常生活の様子 | 介護の重さ |
|---|---|---|---|
| 軽度 | 21〜26点(満点30点) | 日付・曜日を間違える / 同じことを繰り返し聞く / 服薬・金銭管理が難しくなり始める / 一人での外出はまだ可能なことが多い | 部分的なサポートで在宅生活が可能。服薬管理・通院サポートが主な支援になる |
| 中等度 | 10〜20点 | 日常的な調理・掃除・洗濯が難しくなる / 外出先で道に迷う / 家族の顔を忘れ始めることも / 入浴・着替えに介助が必要になる / 昼夜逆転・徘徊が出始めることも | 一人では生活できなくなる。デイサービス・訪問介護の利用が増える。施設入居を検討し始める段階 |
| 重度 | 9点以下 | 会話が成り立たなくなる / 家族の顔が分からなくなる / 歩行が困難になる / 食事・排泄・入浴すべてに全介助が必要 / 嚥下(飲み込み)機能が低下し、肺炎リスクが高まる | 24時間の介護が必要になる。特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームへの入居を本格検討する段階 |
※ MMSEスコアはあくまでも参考の目安です。同じスコアでも生活への影響は個人差があります。診断・判定は必ず専門医が行います。出典: 認知症の行動・心理症状(BPSD)に関する診療ガイドライン(日本神経学会)を参考に作成
軽度の段階で施設入居を考えるのは早すぎますか?
軽度の段階で施設を決める必要はありませんが、「どんな施設があるか」「入居にどのくらいの費用がかかるか」の情報収集は早めに始めておくことをおすすめします。人気の施設は待機が数年に及ぶこともありますし、本人が意思を示せるうちに希望を聞いておく方が後悔が少なくなります。中等度になってから慌てて探すより、軽度のうちに「もしものとき」の準備を進めておくと、家族全員の安心につながります。
早期発見が大切な理由
「認知症は早めに受診した方がいい」とよく聞くんですが、早く分かっても治らないなら、あまり意味がないのでは? と思ってしまって……。
認知症は現在のところ根本的な治療薬はありませんが、早期発見には3つの大きなメリットがあります。第一に、現在使える薬(アルツハイマー型であればコリンエステラーゼ阻害薬など)を早い段階から使うことで、進行を遅らせることができます。第二に、本人が意思決定できる段階で「どんな介護を受けたいか」「財産管理をどうするか」を決めておけます。第三に、家族が心理的・経済的・物理的な準備をする時間を確保できます。
- ① 進行を遅らせる治療を早く始められる: コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプトなど)は早い段階ほど効果的とされています
- ② 本人が意思決定できるうちに準備できる: 介護の希望・財産管理(任意後見制度・家族信託)・入居先の希望などを本人と話し合える
- ③ 家族の準備期間が確保できる: 介護休業の申請・施設の情報収集・介護サービスの整備などを焦らず進められる
「受診してほしい」と伝えても、本人が「病院に行きたくない」と言って聞かないんです。どうしたらいいでしょうか?
本人が受診を嫌がるケースはとても多いです。「認知症の検査」とは伝えず、「健康診断」「物忘れ外来(もの忘れ検査)」「血圧のチェックのついでに」と伝える方が受け入れてもらいやすいことがあります。それでも難しい場合は、まず家族だけでかかりつけ医や地域包括支援センターに相談してみてください。本人を連れていかなくても、家族の話を聞いてアドバイスをもらえます。
- かかりつけ医(内科・家庭医): まず最初に相談。必要に応じて専門医に紹介してもらえる
- 物忘れ外来・認知症専門外来: 神経内科・精神科・老年内科など。詳しい検査・診断・治療方針を決めてもらえる
- 地域包括支援センター: 受診の勧め方の相談、介護サービスの情報収集、認知症サポーターの紹介まで幅広く対応。費用無料
診断までの流れ
専門医に受診した場合、どんな流れで診断が出るんでしょうか?
認知症の診断は複数の検査を組み合わせて行います。「1回来たらすぐ診断が出る」というわけではなく、検査に数回かかることもあります。流れを事前に知っておくと、受診への不安が少し和らぎます。
| ステップ | 内容・目安 |
|---|---|
| ① 相談・受診 | かかりつけ医または地域包括支援センターに相談 → 必要に応じて物忘れ外来・専門医に紹介 |
| ② 認知機能検査 | MMSE(ミニメンタルステート検査)または長谷川式スケール(HDS-R)などの問診形式の検査。所要時間は15〜30分程度 |
| ③ 脳画像検査 | MRI(構造を見る)またはCT(血管病変の確認)で脳の萎縮や血管障害の有無を確認。必要に応じてSPECT(血流の状態)も実施 |
| ④ 血液検査・問診 | 甲状腺機能低下症など「治る認知症」の除外診断。生活状況・症状の出始めの時期・進行スピードなどを確認 |
| ⑤ 診断・説明 | 検査結果をもとに医師が診断。タイプ・重症度・治療方針を説明。本人・家族へのインフォームドコンセント |
| ⑥ 治療・薬の開始(必要な場合) | アルツハイマー型の場合はコリンエステラーゼ阻害薬など。BPSDが強い場合は対症療法薬を検討 |
| ⑦ 介護保険申請 | 市区町村の窓口または地域包括支援センターに要介護認定を申請。申請から認定まで原則30日以内 |
| ⑧ ケアプラン作成・サービス開始 | ケアマネジャーを選んでケアプランを作成。必要なサービスを組み合わせて在宅介護または施設利用を開始 |
※ ステップ②〜⑤は同日に完了することもあれば、複数回の受診を要することもあります。施設によって検査内容や順序が異なります。
介護保険の申請は、診断が出てからでないとできないんですか?
いいえ、介護保険の申請は診断前でも行えます。「認知症の疑い」という状態でも申請でき、かかりつけ医の意見書があれば審査は進みます。診断と並行して申請を進めることで、認定が出たらすぐにサービスを使い始められます。申請から認定まで原則30日かかりますので、受診と同時期に申請を始めておくと待ち時間を無駄にしなくて済みます。
次の一歩 — 今日から始められること
認知症について全体的に理解できてきました。では今の自分には、まず何をすればいいんでしょうか?
段階によってやるべきことが変わります。「まだ受診していない」なら、かかりつけ医か地域包括支援センターへの相談が最初の一歩です。「すでに診断が出た」なら、介護保険の申請とケアマネジャー探しを早めに始めましょう。「サービスを使い始めたい」なら、在宅か施設かの方向性を家族で話し合う時間を作ることが大切です。
- 「物忘れが気になり始めた」段階: → 相談窓口まとめを参照。まずかかりつけ医か地域包括支援センターへ
- 「診断が出た・申請を考えている」段階: → 要介護認定の申請の流れを確認。認定が出たらケアマネジャー選びへ
- 「在宅か施設か迷っている」段階: → 在宅介護サービスの種類一覧とグループホームの特徴を比較してみてください
- 「BPSDがつらい・介護に限界を感じている」段階: 一人で抱え込まないことが最優先です。地域包括支援センターまたは認知症の専門外来に相談を
認知症というと、どうしても「どんどん悪くなるだけ」というイメージがあって、受け入れるのがつらくて……。
その気持ちは、多くの家族が抱えています。認知症は確かに進行する病気ですが、適切なケアと環境があれば、長い期間にわたって本人らしい生活を続けられます。「できないことが増える」のではなく「できることを一緒に支える」という視点に切り替えることが、介護を続ける上での大きな助けになります。まずは情報を集め、使える支援を一つずつ確認していきましょう。
関連するガイド
出典
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(令和元年6月18日) (参照: 2026-06-21)
- 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス — 認知症」 (参照: 2026-06-21)
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(令和元年6月) (参照: 2026-06-21)
- 国立長寿医療研究センター「認知症情報サイト」 (参照: 2026-06-21)