介護のはじまりガイド
看取り介護とは? — 施設での看取りと在宅での看取り、選択肢と備え
「いつかそういう話をしなければいけないのはわかっているけれど、どこから考えればいいのか」——親御さんが要介護3以上になったとき、多くのご家族が抱える正直な気持ちではないでしょうか。看取りという言葉を聞いただけで胸が締め付けられる方も多いと思います。それは、それだけ大切に思ってきた証です。 この記事では、看取り介護とは何かという基本から、施設で看取る場合と自宅で看取る場合の具体的な流れ、どちらを選ぶかの判断軸、そして本人の意思をどう確認するかまでを、できるだけ穏やかな言葉でお伝えします。「備えておくこと」は、本人の尊厳を守り、ご家族の後悔を少なくするための最大の贈り物になります。
公開: 2026-06-21
看取り介護とは — 最期まで本人らしく過ごすための支援
母は要介護4で、施設の方から「そろそろ看取りについて考えておきましょう」と言われました。看取り介護って、具体的にどういうことなんでしょうか?
看取り介護とは、回復が見込めない状態になった方に対して、延命を最優先にするのではなく、その人らしさと尊厳を大切にしながら最期まで過ごせるよう支援するケアです。治療や延命処置を積極的に行うのではなく、痛みを和らげ、穏やかな環境を整えることが中心になります。
ホスピスとは違うんですか?
ホスピス(緩和ケア病棟)は主にがん患者さん向けの医療機関です。一方、看取り介護は介護施設や自宅でも受けられます。対象も、がんに限らず高齢による衰弱や認知症の方も含まれます。「最期を病院以外の場所で、身近な人に囲まれて」という希望に応えるのが看取り介護の役割です。
- 対象: 医師が医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断し、本人または家族が看取り介護に同意した方(看取り介護加算の算定要件に準拠)
- 目的: 延命より生活の質(QOL)を優先し、苦痛を和らげながら本人らしい最期を支える
- 場所: 介護施設(特養・介護付き有料老人ホーム・GHなど)または自宅
- 開始の流れ: 医師の判断 → 施設・家族・本人で話し合い → 看取り介護計画書を作成 → ケア開始
「同意」というのは、本人が同意できない場合はどうなるんでしょう?
認知症が進んでいて本人の意思確認が難しい場合は、家族が本人の意思を推定して代わりに判断します。このため、まだ話ができるうちに本人の希望を確認しておくことが非常に大切です。後ほど「ACP(人生会議)」の話でも触れます。
施設での看取り — 専門スタッフが寄り添う
今母が入っているのは特別養護老人ホームです。施設で看取ってもらえるんでしょうか?
特養は看取り対応が最も整っている施設のひとつです。厚生労働省の調査によると、特養の8割以上が看取り介護に対応しています。介護付き有料老人ホームは6割超、グループホームは半数程度が対応しています。ただし施設によって体制が異なりますので、まず担当のケアマネや施設スタッフに「看取り対応の体制」を確認してみてください。
| 施設の種類 | 看取り対応割合(目安) | 医療連携の特徴 |
|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 8割以上 | 協力医療機関との連携が義務付けられており、医師往診+訪問看護が基本 |
| 介護付き有料老人ホーム | 6割以上 | 施設により常勤看護師の配置あり。夜間対応は施設差が大きい |
| グループホーム(GH) | 半数程度 | 少人数・家庭的な環境。医療連携体制は施設ごとに確認が必要 |
| 老健(介護老人保健施設) | 医療機能あり | リハビリ・医療が強み。看取りより回復・在宅復帰が主目的 |
※ 割合は厚生労働省「介護給付費分科会」資料および「介護サービス施設・事業所調査」等に基づく目安です(看取り介護加算の届出施設割合)。年度や調査により数値は変動します。施設ごとに体制が異なるため、必ず入居先に直接ご確認ください。
施設で看取る場合、最期の数週間はどんな流れになるんでしょうか?
大まかには、①看取り介護への移行確認 → ②計画書の作成・合意 → ③日常的な緩和ケア → ④臨死期(数日前)の集中支援 → ⑤看取り後のグリーフケアという流れです。食事がとれなくなる、呼吸が変わるなど状態の変化があると施設から連絡が来ます。臨死期には家族が24時間面会できる施設が多く、そばにいることができます。
- 夜間の緊急対応体制: 看護師が夜間常駐しているか、緊急時に呼び出し対応があるか
- 協力医療機関との連携: 往診医や訪問看護ステーションとの契約内容
- 家族への連絡・面会: 状態変化時の連絡タイミング、臨死期の面会制限の有無
「看取り介護加算」という言葉を聞いたことがあるんですが、これは何ですか?
看取り介護加算とは、施設が看取りに向けた体制を整えてケアを行った場合に、介護保険から加算される費用のことです。ご家族の負担が急に大きく増えるわけではなく、介護保険の1〜3割負担の範囲内です。ただし施設によって加算の仕組みが異なるので、費用については事前に確認しておくと安心です。
在宅での看取り — 訪問医療・訪問看護を軸に
父は「最期は自分の家で」と言っています。在宅で看取ることは実際にできるんでしょうか?
在宅看取りは可能です。2023年の統計では、自宅での死亡が全体の約17%まで上昇しており、増加傾向にあります。ただし、在宅で看取るには3つの柱が揃うことが重要な前提条件になります。
- ① 24時間対応の訪問看護: 夜間・休日も緊急連絡・訪問できる訪問看護ステーションの確保
- ② 在宅看取りに対応する訪問診療医: 定期的な訪問診療 + 緊急往診・死亡診断書の作成ができる医師
- ③ 家族の介護力と覚悟: 変化する状態に対応できる家族の関与。一人で抱え込まない支援体制
夜中に急に状態が変わったとき、どうすればいいんでしょう? 119番を呼ぶべきですか?
在宅看取りでは原則として救急車を呼ばないことを事前に確認しておきます。119番を呼ぶと心肺蘇生が始まり、希望していた「穏やかな最期」と逆の方向に進むことがあります。代わりに、夜間でも対応できる訪問看護ステーションの緊急連絡先を手元に置いておくことが重要です。状態が変化したらまず訪問看護師に連絡し、指示を仰ぐ流れを決めておきましょう。
訪問看護ステーションは、どうやって選べばいいですか?
在宅看取りを見据えるなら、看取り実績があるか、24時間対応かどうかを必ず確認してください。ケアマネジャーに「看取り対応の実績がある訪問看護ステーションを紹介してほしい」と依頼するのが最も確実です。訪問診療医との連携体制も一緒に確認しましょう。
| 種別 | 内容 | 手配先 |
|---|---|---|
| 訪問診療 | 定期的な往診 + 緊急往診 + 死亡診断書の作成 | かかりつけ医またはケアマネから紹介 |
| 訪問看護(24h対応) | 状態観察・医療的ケア・緊急対応・家族への指導 | ケアマネから紹介、または直接問い合わせ |
| 訪問介護(ホームヘルプ) | 身体介護・生活援助・家族の負担軽減 | ケアプランで調整 |
| 特殊寝台・エアマット | 床ずれ予防・安楽な体位保持 | 福祉用具事業者からレンタル(介護保険対象) |
| ポータブルトイレ・尿器 | トイレまでの移動が困難になった際の排泄補助 | 同上 |
※ 介護保険の範囲内で賄えるものと、医療保険・自費になるものがあります。ケアマネジャーに確認してください。
施設と在宅、どちらを選ぶ
施設と在宅、どちらが「正解」なんでしょう? 正直、何を基準に考えればいいかわからなくて……
どちらが正解、ということはありません。最も大切なのは、本人がどこで過ごしたいかという希望です。ただ、希望だけでなく現実的な条件も一緒に整理する必要があります。主な判断軸を比較してみましょう。
| 観点 | 施設看取り | 在宅看取り |
|---|---|---|
| 本人の希望 | 「施設のスタッフに任せたい」「家族に負担をかけたくない」という方に | 「住み慣れた家で最期を」という強い希望がある方に |
| 家族の介護力 | 家族が常にそばにいられない状況でも対応可能 | 家族が中心となって関わる必要あり。一定の介護力が必須 |
| 医療体制 | 施設の協力医療機関が対応。施設差はあるが体制は整っている | 訪問診療医と24h訪問看護の確保が必須 |
| 経済的な負担 | 施設の月額費用(介護保険+施設費)がかかる | 在宅サービス費は比較的安く抑えられる場合も。ただし医療費が別途かかることも |
| 親族の距離感 | 離れて暮らす家族でも面会で関われる | 近くに住む家族の関与が強く求められる |
| 急変時の対応 | 夜間でも施設スタッフが対応 | 訪問看護の緊急連絡体制の確立が重要 |
※ この表はあくまで一般的な傾向です。施設・地域によって状況は異なります。
在宅でやろうとしてみたけれど、途中で限界になったらどうなりますか?
在宅を選んでも、途中で施設に移ることは可能です。「最初から完璧に決めなければいけない」という焦りは必要ありません。状況が変わったら変えていいという前提で、まずは本人の意思とご家族の現状をケアマネジャーに相談することから始めましょう。一人で全部を決めようとしないことが、長い介護を支える基本です。
- 担当ケアマネジャー: 現在の状態と利用できるサービスを整理し、選択肢を一緒に考えてくれます
- 主治医(かかりつけ医): 医学的な見通しと、在宅で対応できる範囲について具体的な見解を聞きましょう
事前に話し合っておきたいこと — ACP(人生会議)
ACP、人生会議という言葉を聞いたことがありますが、具体的には何をするんでしょうか?
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とは、もしものときのために、本人が望む医療やケアについて、家族や医療職と繰り返し話し合うプロセスのことです。「人生会議」という愛称は厚生労働省が普及のためにつけたものです。一度話して終わりではなく、状態が変わるたびに更新していくことが大切です。
具体的に、どんなことを話しておけばいいんでしょうか?
主に5つのテーマを確認しておくと安心です。①延命治療をどこまで望むか(人工呼吸器・胃ろう・心臓マッサージなど)、②食事が食べられなくなったときの対応、③最期を迎える場所、④宗教的な希望・葬儀の希望、⑤財産・遺言に関することです。全部一度に話す必要はなく、日常のなかで少しずつ確認していけば大丈夫です。
- エンディングノート: 本人が自分の意思を書き留めておくノート。法的効力はないが、家族への伝達手段として有効
- リビングウィル(事前指示書): 延命治療に関する意思を文書化したもの。主治医や施設と共有しておくと判断の拠り所になる
- 医療ソーシャルワーカー・ケアマネ: 話し合いのファシリテーター役をお願いできます
- 地域包括支援センター: ACP の相談窓口としても機能しています
正直、こういう話を親に切り出すのが怖くて……「縁起でもない」と怒られそうで。
その気持ち、とてもよくわかります。多くの方が同じ理由で話しにくさを感じています。ただ、切り出し方を少し工夫するだけで変わることがあります。たとえば「ニュースで人生会議というのを聞いて、私自身も考えてみたくて」と自分の話として入る方法があります。あるいは、入院や施設への入居のタイミング、介護認定の更新のタイミングなど、自然な文脈で話しやすくなることもあります。焦らず、少しずつで大丈夫です。
- 「お父さんは、もしもの時はどこで過ごしたい? 私もそろそろ考えておかなきゃと思って」
- 「以前テレビで人生会議っていうのを見たんだけど、一緒に聞いてみない?」
- 入院退院や施設見学のタイミング: 「施設の方も聞いてくれているし、希望を聞かせてもらえると安心なんだけど」
次の一歩
看取りについて、少し整理できた気がします。他にも確認しておいた方がいいことはありますか?
看取りに関連して、多くのご家族が気になるテーマをまとめておきます。延命治療の選択、特養やグループホームの詳細、相談先の探し方、それから「施設に入れることへの罪悪感」も、一人で抱え込まずに読んでみてください。
- 特別養護老人ホームとは — 看取り対応が手厚い特養の仕組みと入居のながれ
- グループホームとは — 認知症の方が少人数で過ごす施設の特徴と看取り対応
- 介護の相談先まとめ — ケアマネ・地域包括支援センター・医療ソーシャルワーカーへの相談方法
- 施設入居への罪悪感とどう向き合うか — 「見捨てたみたい」という気持ちへの向き合い方