介護のはじまりガイド
認知症の親を施設に入れる罪悪感とどう向き合うか — 家族の本音と専門家の言葉
「施設に入れることに罪悪感がある、見捨てたみたいで」——そんな言葉を、多くの家族が口にします。何年も介護を続けてきたのに、なぜこんなにも胸が痛いのか。自分はひどい子どもなのか。そう思いながら、夜も眠れない日が続いている方も少なくないでしょう。 この記事は、「施設に入れる = 見捨てる」という思い込みと向き合うための記事です。罪悪感の正体を整理し、入居後も続く家族の絆のかたちを、専門家の言葉と介護経験者の声をもとにお伝えします。あなたが感じている痛みは、「それだけ向き合ってきた証」です。
公開: 2026-06-21
「施設に入れる = 見捨てる」は思い込み
母を認知症専門のグループホームに入れることに決めたんですが……正直、見捨てたような気がして、毎晩眠れないんです。
その気持ち、多くの方が抱えています。「見捨てた」「親不孝だ」「もっとがんばれたはずなのに」——施設入居を決めた家族のほぼ全員が、最初はそう感じます。でも少し立ち止まって考えてみましょう。眠れないほど悩んでいることが、すでに答えを示していませんか?
……どういうことですか?
本当に「見捨てた」人は、こんなに苦しみません。罪悪感があるということは、それだけ親のことを大切に思い、真剣に向き合ってきた証です。施設への入居を決めることは、介護から逃げることではなく、プロの力を借りて最善のケアを選ぶ決断なのです。
- 「見捨てたみたいで申し訳ない」——在宅で介護し続けることだけが愛情ではありません
- 「もっとがんばれたかもしれない」——すでに十分にがんばってきたからこそ限界を感じています
- 「親がかわいそう」——本人のQOL(生活の質)が施設で上がるケースは多くあります
- 「親戚や世間に何か言われそう」——あなたが何を選んでも批判する人は一定数いますが、判断はあなた自身がするものです
- 「こんな気持ちのまま会いに行けない」——罪悪感を感じながら会いに行くことが、むしろ関係性を続ける誠実な行動です
罪悪感の正体 — 4つの感情の混ざりもの
「罪悪感」とひとまとめにしていましたが、なんだかいろんな感情が混ざってる気がして、うまく整理できないんです。
施設入居のときに感じる「罪悪感」は、実際には複数の感情が重なっています。それぞれを分けて見てみると、少し楽になれることがあります。
| 感情の種類 | どこから来るか | 向き合うためのひとこと |
|---|---|---|
| ① 親への申し訳なさ | 「自分が面倒を見続けなければいけない」という責任感。親から「施設には行きたくない」と言われた記憶が残っていることも | 本人の言葉はその時点の感情です。状態が変わった今、最善のケアを選ぶことは裏切りではありません |
| ② 自分への否定 | 「自分が弱いから限界になった」「もっとできたはず」という自責感。完璧な介護者像と比較してしまう | 介護は体力・精神力・時間・経済力の全部が必要です。一人の家族が24時間担うことに、そもそも限界があります |
| ③ 周囲の目への怖さ | 「きょうだいに何か言われるかも」「近所や親戚にどう思われるか」という他者評価への不安 | 介護の実態を知らない人の言葉より、日々向き合ってきたあなた自身の判断を信じてください |
| ④ 過去への後悔 | 「もっと早くサービスを使えばよかった」「あの時ああしていれば」という後悔。意思決定のプロセスへの疑問 | 後悔は「真剣に関わってきた人だけが感じられるもの」です。何も考えなかった人は後悔しません |
※ 4つの感情が全部あってもいいし、1つだけのこともあります。感情に正解はありません。
確かに、全部混ざってました。「申し訳なさ」と「自責」が特に強いです。
分けて見えると、少し扱いやすくなりませんか。「申し訳なさ」に対しては、入居後も会いに行き続けることで応えられます。「自責」については、あなたが限界まで頑張った事実はどこへも消えません。自分を責める必要はありません。
施設介護は「家族の愛情の延長」という視点
施設に入れることが「愛情の延長」というのは、どういう意味ですか? 逃げたと思われるんじゃないかと……。
考えてみてください。子どもが熱を出したとき、病院に連れて行きますよね。それは「育てることを放棄した」のではなく、「専門家の力を借りて最善のケアをした」ことです。認知症ケアも同じです。専門職が24時間体制でサポートする施設に任せることは、プロへの委託であって、愛情の放棄ではありません。
- 親のQOL(生活の質): 認知症ケアの専門訓練を受けたスタッフが、本人のペースに合わせてケアします
- 家族の健康: 在宅介護による介護者の体調悪化・うつ・燃え尽きは深刻な社会問題です。家族が倒れたら介護は継続できません
- 親子の関係性: 疲弊した状態で24時間一緒にいると、思わず怒鳴ってしまったり、お互いを傷つけてしまうことがあります。施設に任せることで、会いに行くたびに「穏やかな家族の時間」を持てるようになります
- 判断力: 余裕がある状態のほうが、本人の変化に気づきやすく、施設スタッフとも対等に話し合えます
在宅で頑張り続けることだけが愛情じゃないんですね。ケアマネさんからも似たようなことを言われました。
現場のケアマネジャーは口をそろえて言います。「家族が燃え尽きた後に施設に入居するより、家族に余裕があるうちに入居した方が、みんなにとっていい」と。施設への入居を「最後の手段」として遅らせるより、「より良いケアへの移行」として捉えることで、その後の関わり方が変わってきます。
実際に施設に入れた方は、後でどう感じているんでしょう?
「入居を決めた最初の1ヶ月はつらかったけど、元気な顔を見るうちに少しずつ楽になった」という声が多いです。また「在宅のときはいつもピリピリして会話ができなかったのに、施設では穏やかに話せるようになった」という家族も少なくありません。距離ができることで、もう一度家族として向き合えることがあります。
入居後1〜3ヶ月によくある感情の波
入居を決めたとして、入居後はどんな気持ちになるんでしょうか。罪悪感がずっと続くのかと思うと……。
入居直後は感情の揺れが大きくなることが多いです。でも時間の経過とともに、多くの家族が落ち着いていきます。どんな感情の波があるか、あらかじめ知っておくと少し楽になれます。
| 時期 | よくある感情・状況 | 対処のヒント |
|---|---|---|
| 入居直後〜1週間 | 「本人は大丈夫だろうか」という不安。「やっぱり連れ帰りたい」という衝動。施設からの電話を過度に恐れる | 最初の1週間は本人も環境変化への適応期間です。面会は施設の指示に従い、様子を見守りましょう |
| 2〜4週間 | 「落ち着いて過ごせているか」の確認時期。面会のたびに本人の様子が気になる。スタッフとの関係をどう築くか | スタッフに「気になること」を遠慮なく伝えてください。関係性を早めに作ることが大切です |
| 1〜3ヶ月 | 徐々に落ち着いてくる時期。「思ったより元気そう」と気づく家族も多い。面会の頻度や会い方のペースが定まってくる | 面会は「義務感」ではなく「会いたいから行く」に変えていきましょう。週1回でも月2回でも、続けることが大切です |
| 3ヶ月以降 | 「ここでよかった」と思える瞬間が増える。スタッフとの信頼関係ができ、ケアに参加する余裕が生まれる | 年間行事や誕生日の面会を楽しみにするなど、施設を通じた「新しい関わり方」を見つけていきましょう |
※ 個人差があります。入居後の感情の揺れが強い場合は、地域包括支援センターや家族会などに相談することをおすすめします。
最初の1ヶ月が特につらいんですね。「連れ帰りたい」と思っても、ぐっと我慢しなきゃいけない?
「我慢する」というより、「本人の適応時間を待つ」という気持ちで過ごせるといいです。認知症の方は環境変化への適応に時間がかかります。入居直後の「帰りたい」「ここは嫌だ」という言葉が、数週間後にはなくなるケースもあります。スタッフと密に連絡を取りながら、様子を見守りましょう。
家族との会話 — きょうだいや配偶者と気持ちを共有する
実は、きょうだいとの間で意見が割れていて……。私は施設派なんですが、弟は「もっと在宅でがんばれ」って。この罪悪感、一人で抱えてる感じがします。
それはつらいですね。介護の場面では、きょうだい間の意見対立はとても多いです。特に、介護の中心を担っている人とそうでない人では、見えている現実がまったく違うことがあります。
- 「在宅が無理」ではなく「施設の方が本人のため」という伝え方に: 「私が限界」より「専門的なケアの方が本人にとっていい」という視点で話すと伝わりやすいです
- 介護日誌や記録を見せる: 日々の大変さを言葉で伝えるのは難しいです。記録があると「これだけのことが起きていた」と理解してもらいやすくなります
- 一緒にケアマネや施設スタッフの話を聞いてもらう: 第三者の専門家の言葉は、家族間の議論を冷静にする効果があります
- 全員の合意を目指さなくていい: 主介護者が最善と判断した選択を尊重する、という前提を確認しましょう
夫も「もっとやれることがあるんじゃないか」という雰囲気で……。配偶者への相談は難しいです。
配偶者にとっては「妻(夫)の親の介護」という立場で、自分の感情との整理が難しい場合があります。「私がつらい」という話をするより、「今後どう関わるか一緒に考えたい」という入り方の方が受け取ってもらいやすいです。また、罪悪感を一人で抱えていることを正直に話すことで、パートナーが「支える側」に回ってくれることもあります。
一人で抱え込まない、ということが大事なんですね。
罪悪感は、一人で抱えると大きくなりやすいです。誰かに話すと「そう感じて当然だよ」と言ってもらえるだけで、少し軽くなることがあります。家族の中で話せる人がいなければ、同じ経験をした人たちが集まる家族会も選択肢の一つです。
罪悪感を行動に変える — 入居後の関わり方
罪悪感をずっと感じていても仕方がないとわかっているんですが……。入居してからも、自分にできることはありますか?
あります。施設に入ったあとでも、家族にしかできないことはたくさんあります。「関わり続けること」が、罪悪感をアクションに変える最もシンプルな答えです。
- 面会に行く: 頻度より「定期的に来る」という安心感が大切。週1回でも月2回でも、本人が「家族が来てくれる」と感じられることが重要です
- 本人が好きな話題を持っていく: 昔の写真・好きな歌・思い出の食べ物など、「今できること」より「昔の記憶」の方が認知症の方には届きやすいです
- 施設スタッフと信頼関係を作る: 「先生」と呼ぶより、名前で呼んで感謝を伝えましょう。家族の存在を知ってもらうことで、ケアの質が変わることがあります
- 持ち物に気を配る: 着替え・季節の衣類・好きなもの(ぬいぐるみ・写真立てなど)を持ち込むことで「自分の居場所感」が生まれます
- 施設の行事に参加する: 誕生日会・季節の行事への参加は、本人の喜びになるだけでなく、スタッフとの関係づくりにもなります
面会に行くたびに、認知症が進んでいる母の姿を見るのがつらくて……。それでも行くべきですか?
「行くべき」というより、行かなかった後の後悔の方がつらいという声をよく聞きます。認知症の方は、その日の出来事を覚えていなくても、誰かが来てくれたという「感情の記憶」は残ります。「今日もあなたに会えて嬉しかった」という感覚は、会話の内容より長く残ります。
次の一歩 — 一人で抱えないために
少し気持ちが整理できた気がします。でも、罪悪感がすぐになくなるわけじゃないですよね……。
なくなるまで待つのではなく、罪悪感と一緒に前に進むという感覚でいいんです。罪悪感は愛情の裏返しです。それがなくなることはないかもしれませんが、行動を積み重ねる中で、少しずつ形が変わっていきます。「見捨てた気持ち」が「精一杯やっている」という自己肯定に変わっていく方が多いです。
同じ気持ちを経験した家族と話せる場があると聞いたんですが?
あります。公益社団法人 認知症の人と家族の会では、全国各地で家族が集まって語り合う「つどい」を開催しています。「施設に入れることへの罪悪感」を話せる数少ない場の一つです。同じ経験をした人の言葉は、専門家とは違う届き方をすることがあります。
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会: 電話相談(0120-294-456)と全国各地の「つどい」で家族同士が語り合えます(https://www.alzheimer.or.jp/)
- 地域包括支援センター: 入居前・後のどちらでも相談できます。担当ケアマネジャーへのつなぎ役にもなります
- 施設の相談員(生活相談員): 入居後の家族の悩みも受け付けています。「会いに行くのがつらい」という気持ちも正直に話してみてください
- [老人ホームの選び方 — 種類と特徴を比較](/guide/roujin-home-erabikata/)
- [グループホームとは — 認知症の方に特化した施設](/guide/group-home/)
- [認知症とは — 症状・進行・家族の関わり方](/guide/ninchishou-towa/)
- [在宅介護 vs 施設介護 — どちらを選ぶか判断する視点](/guide/zaitaku-vs-shisetsu/)
関連するガイド
出典
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会 公式サイト (参照: 2026-06-21)
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(令和元年6月) (参照: 2026-06-21)
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」(令和3年) (参照: 2026-06-21)