介護のはじまりガイド
在宅介護と施設介護、どちらを選ぶ? — 判断軸と家族の本音
「親の介護が必要になったとき、自宅で看るべきか、施設に入ってもらうべきか」——この問いに正解はありません。在宅介護を選べば家族の負担が重くなるかもしれない。施設を選べば「見捨てた」と罪悪感を感じるかもしれない。どちらを選んでも、後ろめたさが残る気がする……そんな気持ちを抱えている方はとても多いです。この記事では、在宅と施設それぞれの特徴・費用・向いているケースを整理し、「どちらが自分たちに合っているか」を考えるための判断軸を7つ紹介します。正解を押しつけるのではなく、あなたの家族に合った選択を見つける手助けになれば幸いです。
公開: 2026-06-21
「在宅で看るか、施設に頼むか」— よくある悩みの実態
母が要介護2の認定を受けました。兄弟で話し合ったんですが、「自宅で看よう」という意見と「施設を考えた方がいい」という意見に分かれてしまって。正直、どちらが正しいのかわからなくて困っています。
その迷いは、とても自然なことです。在宅介護と施設介護は、どちらが「正しい」というものではなく、家族の状況・本人の意思・使えるサポートの量によって合う選択が変わります。まずは両者を比べてみましょう。
在宅を選ぶ家族と施設を選ぶ家族では、どんな違いがあるんでしょうか?
在宅を選ぶ理由で多いのは「本人が自宅にいたがっている」「できる限り一緒にいたい」「費用を抑えたい」といったものです。一方で施設を選ぶ理由は「家族が仕事を続ける必要がある」「医療的なケアが増えてきた」「介護者自身が体力的・精神的に限界を感じている」といったケースです。どちらも大切な判断理由で、どちらかが「愛情が薄い」ということは絶対にありません。
- 在宅を選ぶ理由: 本人が自宅を望む / 家族が一緒にいたい / 費用を抑えたい / 今は在宅でも対応できる
- 施設を選ぶ理由: 介護者が仕事を続ける必要がある / 医療的ケアが必要になってきた / 夜間の対応が難しい / 介護者の体力・精神的負担が大きい
- 大切なのは: 「施設に入れること = 見捨てること」ではありません。本人と家族の両方が無理なく続けられる選択が、最も良い選択です
在宅介護のメリット・デメリット
在宅介護のメリットって何でしょうか? 親を自宅に置いておけることは分かるんですが、ほかにも理由はありますか?
在宅介護には、本人が住み慣れた環境で生活を続けられることが最大のメリットです。認知症の方にとっても、慣れ親しんだ場所での生活は症状の安定につながる場合があります。費用面でも、要介護度が低い段階では施設より抑えられることが多いです。
| 視点 | 内容 |
|---|---|
| ✅ メリット① | 本人が住み慣れた自宅で生活を続けられる(生活の継続性が保たれる) |
| ✅ メリット② | 介護保険の在宅サービスを組み合わせれば、費用を月数万円台に抑えられるケースも多い |
| ✅ メリット③ | 家族が日常的に顔を合わせて関係を続けやすい |
| ✅ メリット④ | 本人のペースや生活習慣を尊重しやすい |
| ✅ メリット⑤ | 状況に応じてサービスの量を柔軟に変更できる |
| ❌ デメリット① | 主たる介護者(家族)の身体的・精神的負担が大きい |
| ❌ デメリット② | 夜間の対応が難しく、介護者の睡眠不足が慢性化しやすい |
| ❌ デメリット③ | 医療的ケアの必要性が高まると、在宅対応の限界が来ることがある |
| ❌ デメリット④ | 住宅改修(手すり・段差解消など)のコストが別途かかる場合がある |
※ 在宅介護の費用は、使うサービスの量・要介護度・所得によって大きく異なります。介護保険の自己負担は原則1割(所得に応じ2〜3割)です。
やっぱり家族の負担が大きくなるのが一番のデメリットですよね。どう対応したらいいですか?
デイサービスやショートステイなどの在宅サービスを上手に組み合わせることで、家族の負担を減らしながら在宅を続けることができます。「在宅か施設か」と二択で考えるのではなく、「在宅をベースにしながら、施設的なサービスを積極的に使う」という発想が重要です。
施設介護のメリット・デメリット
施設介護のメリットを整理してほしいんですが、費用が高いイメージがあって。実際どのくらいかかるんでしょう?
施設の種類によって大きく異なります。公的施設の特別養護老人ホーム(特養)は比較的安く、月額費用の目安は10〜15万円程度ですが、入所待ちが長いのが課題です。一方、民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は選択の幅が広い分、月額費用が高くなる傾向があります。
| 視点 | 内容 |
|---|---|
| ✅ メリット① | 24時間専門職によるケアが受けられるため、家族の介護負担がほぼなくなる |
| ✅ メリット② | 夜間の対応・緊急時の対応も施設スタッフが担う |
| ✅ メリット③ | 医療と連携した施設では、医療的ケアが必要な方も安心して過ごせる |
| ✅ メリット④ | 食事・入浴・リハビリなどが施設内で完結するため、家族の手間が減る |
| ✅ メリット⑤ | 他の入居者とのコミュニティがあり、社会的孤立を防ぎやすい |
| ❌ デメリット① | 費用が在宅より高くなるケースが多い(特に民間施設は月20〜30万円以上になることも) |
| ❌ デメリット② | 公的施設(特養など)は入所待ちが長い(数ヶ月〜数年のこともある) |
| ❌ デメリット③ | 施設のルールや集団生活に本人が慣れるまで時間がかかる場合がある |
| ❌ デメリット④ | 家族が会いに行く時間・交通費などが発生する |
※ 施設の費用は施設の種類・地域・部屋のタイプ・加算の内容などによって大きく異なります。実際の費用はケアマネジャーや各施設への相談で確認してください。
特養は費用が安いと聞いているんですが、今すぐ入れないんですよね?
特養への入所申込みは今すぐ行うことができます。ただし入所は要介護3以上が原則で、待機期間が長くなりがちです。要介護2の段階で申込みをしておいて、在宅介護を続けながら待つという方法を取る家族も多くいます。「いつか必要になるかもしれない」と思ったタイミングで申込みだけしておくのは、賢い選択のひとつです。
判断軸7つ — どちらが向いているか自己診断
在宅か施設かを判断するとき、何を基準に考えればいいんでしょう? もう少し具体的な軸が欲しいです。
7つの軸で整理してみましょう。それぞれの項目でどちらに当てはまるかを考えてみてください。多くの項目が「施設向き」に当てはまっても、在宅を選ぶことは可能です。逆もしかりで、これはあくまで判断の参考です。
| 判断軸 | 在宅介護が向いている | 施設介護を検討したい |
|---|---|---|
| ① 介護者の体力・精神状態 | 介護者が健康で、無理なく続けられる見通しがある | 介護者が疲弊している・体を痛めた・精神的に限界を感じている |
| ② 仕事との両立 | テレワーク中心など、仕事の時間を調整しやすい / 介護者が複数人いる | フルタイムで通勤が必要、またはひとりで仕事と介護を担っている |
| ③ 認知症の進行度 | 日常会話ができる・見守り中心で対応できる段階 | 徘徊・昼夜逆転・暴言など、一人での対応が困難な症状が出ている |
| ④ 医療依存度 | 服薬管理や定期通院で対応できる段階 | 痰の吸引・経管栄養・インスリン注射など、医療的ケアが日常的に必要 |
| ⑤ 住環境のバリアフリー化 | 手すり設置・段差解消などの改修で安全に暮らせる見通しがある | 急な階段・狭い廊下など、改修しても在宅での安全確保が難しい |
| ⑥ 介護にかかわれる人数 | 家族・親族が複数いて、役割分担できる | 実質ひとりで抱えている、または遠距離で近くにいられない |
| ⑦ 経済的な余裕 | 在宅サービスの費用(月数万円〜)を介護保険と組み合わせて工面できる | 有料老人ホームの費用(月15〜30万円以上)を含めて検討できる / 特養の申込みを先行している |
※ いずれかひとつの軸だけで決めず、複数の軸を総合して判断することが大切です。状況が変わればその都度、選択を見直すことも可能です。
要介護2だと、今はまだ在宅でいけそうな項目も多いですね。でも将来的に重くなったら……と考えると不安で。
とても大切な視点です。在宅介護は「今できる」から始めるものですが、将来の施設への移行も視野に入れながら進めることが重要です。早めに特養の申込みをしておく、地域の施設に見学に行っておく、ケアマネジャーに「いつかは施設も考えている」と伝えておくことが、いざというときにスムーズな移行につながります。
家族の本音 — 罪悪感とどう付き合うか
施設に入れることを考えると、どうしても「見捨てているんじゃないか」という気持ちが出てきてしまって。家族はみんなそういう気持ちになるんでしょうか?
多くの家族が同じ気持ちを経験します。施設を選んだ後も、「これでよかったのか」「もっとできることがあったんじゃないか」と自分を責め続ける方も少なくありません。でも、施設に入れることは「見捨てること」では絶対にありません。
- 専門的なケアが受けられる: 24時間体制のプロによるケアは、家族が自宅で行うケアより医療・介護の質が高い場面も多くあります
- 家族として関わり続けられる: 施設に入っても、面会・外出・お祝い事など、家族として関わる場面はたくさんあります
- 介護者が元気でいることが大切: 在宅介護で介護者が倒れてしまったら、最終的に本人も困ります。あなた自身の健康と生活を守ることも、立派な親孝行です
- 本人の安全を守る選択: 施設を選ぶ多くの場合、「家族への負担」よりも「本人の安全」を優先した結果です
在宅で限界を感じているのに「もっと頑張れるはず」と思ってしまって、なかなか施設を決断できないんです。
その「もっと頑張れるはず」という気持ちこそが、介護離職や介護者のうつ、果ては「介護崩壊」につながるケースがあります。介護は長距離走です。あなたが10年、20年続けていくためには、ペース配分が必要です。施設を選ぶことで、あなた自身が一人の人間として生き直す余白を取り戻すこと——それ自体が、本人への思いやりでもあります。
ケアマネジャーに相談するときのポイント
ケアマネジャーに相談しに行こうと思っているんですが、「施設を考えている」と言ったら、在宅のサービスを勧められてしまいそうで……。どう伝えればいいですか?
ケアマネジャーは在宅サービスの専門家ですが、施設への移行を相談することも大切な役割のひとつです。「在宅と施設、両方を視野に入れて相談したい」と最初に伝えることがポイントです。その上で、今の困りごと・介護者の体力や仕事の状況・将来の不安を率直に話してみてください。
- 「在宅と施設の両方を選択肢として考えたい」と最初に伝える: ケアマネジャーも在宅が絶対だとは考えていません。率直に伝えることで、施設情報も提供してもらいやすくなります
- 今の困りごとを具体的に話す: 「夜間が大変」「仕事を休むことが増えた」「腰が痛くて介助が難しい」など、困っていることを具体的に挙げましょう
- 介護者自身の状態も伝える: 本人の状態だけでなく、「介護者の私が今こういう状態で……」と自分のことも話すことで、サービスの組み方が変わります
- 「特養に申込みをしたい」と伝える: 今すぐ入所しなくても、申込みだけしておきたい場合も遠慮せず伝えてください。申込みと在宅継続は矛盾しません
「施設も考えている」と言うと、ケアマネジャーに悪い印象を与えないか少し心配です。
心配は無用です。担当ケアマネジャーは、本人と家族の両方にとって最善の状況を考えるのが仕事です。介護者が無理をしている状態を続けることの方が、長期的にはリスクが高いと分かっています。むしろ正直に話してもらえることで、より現実に合ったサポートを提案できます。気になる場合は、地域包括支援センターに第三者として相談してみるのも一つの方法です。
まとめと次の一歩
在宅と施設を比べてみると、どちらにも一長一短があるんですね。今すぐ施設を決めなくてもいいと分かって、少し気が楽になりました。
選択は一度決めたら変えられないものではありません。在宅から施設へ、施設から在宅へ(在宅復帰)、途中で変更することも可能です。大切なのは、今の状況に合った選択を、本人と家族で話し合い、ケアマネジャーと相談しながら決めていくこと。「正解」より「自分たちに合った選択」を探してください。
制度のことをもっと知れば、選択肢も広がりそうですね。もう少し勉強してからケアマネジャーに相談してみます。
その通りです。制度を知っておくことで、ケアマネジャーとの相談もスムーズになります。まずは介護保険の基本と、施設の種類を理解しておくと、選択の幅が広がります。
- 介護保険制度を知りたい方へ: 「[介護保険制度とは — 仕組みと使い方をわかりやすく解説](/guide/kaigo-hoken-towa/)」では、介護保険の基本・申請の流れ・費用負担の仕組みを解説しています
- 施設の種類を知りたい方へ: 「[老人ホームの種類を比較 — 特養・有料・グループホーム・サ高住の違いを一覧で](/guide/roujin-home-shurui-hikaku/)」では、施設の種類ごとの違い・費用・入所条件を整理しています
関連するガイド
出典
- 厚生労働省「介護保険制度をめぐる状況について」(令和7年1月) (参照: 2026-06-21)
- 厚生労働省「特別養護老人ホームの概要」 (参照: 2026-06-21)
- 厚生労働省「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の入所基準について」 (参照: 2026-06-21)
- 厚生労働省「介護保険制度の解説」(令和7年7月版PDF) (参照: 2026-06-21)