介護のはじまりガイド
高額介護サービス費とは? — 月額上限を超えた分が戻ってくる制度
「介護費用が思ったより高くて、何か戻ってくる制度があると聞いたけど、よくわからない」——そのような声をよく耳にします。介護保険には、ひと月の自己負担額が一定の金額を超えた場合に、超えた分を後から受け取れる「高額介護サービス費」という制度があります。対象になるのに申請していない方は少なくありません。この記事では、制度の仕組み・所得別の上限額・申請手続きのステップ・よく混同される高額医療・高額介護合算制度との違いを整理してお伝えします。
公開: 2026-06-21
高額介護サービス費とは — 月額上限を超えた分が戻る制度
先月、母のデイサービスや訪問介護の費用を合計したら予想より高くて驚きました。「高額介護サービス費」という制度で戻ってくると聞いたんですが、どういうものなんでしょう?
高額介護サービス費は、ひと月に支払った介護保険サービスの自己負担合計額が、所得に応じて決まる「月額上限」を超えた場合に、超えた分が後から払い戻される制度です。根拠は介護保険法第51条で、申請先は居住地の市区町村です。自動的には戻ってこないため、初回は申請が必要になります。
申請しないともらえないんですね。知らなかったです。どれくらいの金額が戻ってくる可能性があるんでしょうか?
たとえば、一般的な所得の方(月額上限44,400円)が月に60,000円の自己負担を支払った場合、差額の15,600円が還付される計算になります。毎月継続してサービスを利用している方は、年間で数万円単位の還付になることもあります。対象かどうかは上限額と実際の負担額を照らし合わせてみてください。
- 根拠法: 介護保険法第51条(要介護者)・第61条(要支援者)
- 運営主体: 居住地の市区町村(介護保険課・高齢者福祉課など)
- 仕組み: ひと月の自己負担合計が所得別の月額上限を超えた場合、超過分を還付
- 申請方法: 初回のみ市区町村窓口で申請。以降は自動で振り込まれる
- 申請期限: サービス利用月の翌月初日から2年以内
所得別の月額上限
「所得に応じて上限が決まる」とのことでしたが、具体的にはどんな区分になっているんでしょうか?
現行制度では、世帯の市町村民税の課税状況や、収入・年金額をもとに5つの段階に区分されています。2021年8月の改正で、現役並み所得の区分がさらに細分化されました。まずは下の表で自分の区分を確認してみてください。
| 所得段階 | 対象となる方の目安 | 月額上限(個人) |
|---|---|---|
| 現役並み所得III | 課税所得690万円以上(年収約1,160万円以上) | 140,100円(世帯) |
| 現役並み所得II | 課税所得380万円以上690万円未満(年収約770万円〜1,160万円) | 93,000円(世帯) |
| 現役並み所得I | 課税所得145万円以上380万円未満(年収約383万円〜770万円) | 44,400円(世帯) |
| 一般(市町村民税課税) | 現役並み所得I〜IIIに該当しない市町村民税課税世帯 | 44,400円(世帯) |
| 低所得II(市町村民税非課税) | 世帯全員が市町村民税非課税で低所得IIに該当しない方 | 24,600円(世帯) |
| 低所得I(市町村民税非課税・低所得) | 世帯全員が市町村民税非課税で年金収入等が80.9万円以下の方 | 24,600円(世帯)/15,000円(個人) |
| 生活保護受給者等 | 生活保護を受給している方など | 15,000円(個人) |
※ 上限額は2021年8月改正後の現行制度に基づきます。低所得Iの年金収入等の閾値は2025年8月から80万円→80.9万円に引き上げられました。「世帯」は同じ介護保険者(市区町村)に属する被保険者全体が対象です。制度は改正される場合があるため、最新の金額は居住地の市区町村にお確かめください。
2021年に改正があったとのことですが、どう変わったんでしょうか?
改正前は「現役並み所得」がひとつの区分(上限44,400円)でしたが、2021年8月から現役並みI・II・IIIの3段階に細分化されました。課税所得が145万円以上の方は上限が引き上げられ、高所得層については最大140,100円まで引き上げられています。一方で、低所得の方の上限額は据え置かれています。
- 住民税の課税証明書(市区町村窓口または自治体ウェブサイトで取得可)で課税所得を確認する
- 年金の源泉徴収票で収入額を確認する
- 不明な場合は介護保険証に記載の市区町村介護保険担当窓口に問い合わせる
対象になる費用・ならない費用
介護にかかるお金すべてが対象になるわけじゃないんですよね? 施設の食費や居住費も含まれるのかどうか、気になっています。
高額介護サービス費の対象は、介護保険サービスの自己負担分(1〜3割)のみです。施設での食費・居住費・日常生活費、福祉用具の購入費や住宅改修費は対象外になります。これらは別の軽減制度(補足給付など)が対応しています。
| 区分 | 主な費用の例 | 対象 |
|---|---|---|
| 対象 | 訪問介護・デイサービス・ショートステイ・施設サービス(特養・老健・グループホームなど)の介護保険自己負担分(1〜3割) | ○ |
| 対象外 | 施設の食費・居住費(補足給付制度が別途あり) | × |
| 対象外 | 日常生活費(洗濯代・理美容代・日用品費など) | × |
| 対象外 | 福祉用具購入費(特定福祉用具販売で買い取るもの) | × |
| 対象外 | 住宅改修費(手すり・段差解消など) | × |
| 対象外 | 介護保険が適用されない自費サービス(保険外サービス) | × |
| 対象外(別制度) | 医療保険の自己負担分(入院費・外来診療費など) | × ※高額療養費制度が対応 |
※ 医療費との合算は「高額医療・高額介護合算制度」が別途対応しています(section 5 で解説)。
入院中の医療費は「高額療養費」という別の制度が対応するということでしょうか?
そのとおりです。医療保険と介護保険は別の制度で、それぞれの自己負担を軽減する仕組みも別々になっています。ただし、両方の自己負担を合計して年間の上限を設ける「高額医療・高額介護合算制度」があります。医療費も介護費用も両方かさんでいるご家庭は、合算制度も確認してみてください(section 5 で詳しく解説します)。
- 食費・居住費は対象外: 特別養護老人ホームや老健の食費・居住費は高額介護サービス費の対象になりません。低所得の方には別途「補足給付(特定入所者介護サービス費)」という軽減制度があります。
- 住宅改修・福祉用具購入も対象外: 段差解消や手すり設置の工事費、入浴用椅子など「購入」する福祉用具は対象外です。「貸与(レンタル)」する福祉用具の利用料は対象です。
- 自費サービスは対象外: 介護保険外の自費サービス(保険適用外の見守りサービスなど)は計算に含まれません。
申請方法 — 市区町村窓口で 2 年以内に
では、実際に申請するにはどうすればいいんでしょうか? 窓口に行けばいいんですか?
申請窓口は被保険者(要介護・要支援の認定を受けている方)の居住地の市区町村の介護保険担当課(介護保険課・高齢福祉課・長寿福祉課など、名称は自治体によって異なります)です。初回のみ申請が必要で、2回目以降は申請不要で自動的に指定した口座に振り込まれます。
| 書類・持ち物 | 備考 |
|---|---|
| 高額介護サービス費支給申請書 | 市区町村の窓口またはウェブサイトで入手できます |
| 高額介護サービス費支給通知書(支給決定通知書) | 市区町村から郵送で届く通知書。まだ届いていない場合は窓口で確認 |
| 介護保険被保険者証 | 水色の被保険者証(要介護・要支援の方に交付されているもの) |
| 振込先口座がわかるもの(通帳・キャッシュカードなど) | 被保険者本人名義の口座が原則。申請者が代理人の場合は委任状も必要 |
| 申請者の本人確認書類 | 運転免許証・マイナンバーカードなど(代理申請の場合は代理人のものも) |
※ 必要書類は市区町村によって異なる場合があります。事前に電話で確認してから窓口に行くとスムーズです。
申請期限があると聞きましたが、どれくらいまでに申請しないといけないんでしょうか?
サービスを利用した月の翌月初日から2年以内が申請期限です(時効)。たとえば2026年6月のサービス利用分は、2028年7月1日までに申請が必要です。過去にさかのぼって申請できますので、「制度を知らなかった」という方は今からでも対象になる期間の分をまとめて申請できます。
- Step 1: 市区町村から「高額介護サービス費支給通知書」が届いたら、上限を超えている可能性があります(通知が来ない場合でも上限を超えていることがあります)
- Step 2: 市区町村の介護保険担当課(窓口・電話・ウェブ)で必要書類を確認し、申請書を入手する
- Step 3: 申請書に必要事項を記入し、必要書類とともに窓口へ提出(郵送可の自治体もあります)
- Step 4: 審査後、指定の口座に振込(目安:申請から1〜2か月後)
- Step 5: 2回目以降は申請不要。翌月以降も条件を満たす場合は自動で振り込まれます
ケアマネジャーに相談すれば、申請の手伝いをしてもらえますか?
ケアマネジャーは申請書類の書き方を案内したり、窓口への同行をサポートしてくれることがあります。まずは担当のケアマネジャーに「高額介護サービス費の申請をしたい」と相談してみてください。自治体によっては、ケアマネジャー経由で書類を受け取れる場合もあります。
高額医療・高額介護合算制度との違い
「高額医療・高額介護合算制度」という言葉も見かけたんですが、今説明してもらった高額介護サービス費とは別の制度なんですか?
はい、別の制度です。高額介護サービス費は「介護保険のみ・ひと月単位」で上限を設ける制度なのに対し、高額医療・高額介護合算制度は「医療保険と介護保険の自己負担を合算・1年単位」で上限を設ける制度です。2つは併用できます。
| 比較項目 | 高額介護サービス費 | 高額医療・高額介護合算制度 |
|---|---|---|
| 計算の対象 | 介護保険サービスの自己負担のみ | 医療保険+介護保険の自己負担の合計 |
| 計算の期間 | ひと月(1か月)単位 | 1年間(8月〜翌7月)単位 |
| 上限額の水準 | 所得段階別(15,000円〜140,100円) | 所得段階別(設定額は別途) |
| 申請先 | 居住地の市区町村(介護保険課) | 医療保険の保険者(健康保険組合等)または市区町村 |
| 申請のタイミング | サービス利用月の翌月初日から2年以内 | 計算期間終了後(8月以降)に申請 |
| 両制度の併用 | 可能 | 可能(高額介護サービス費適用後の残額を合算) |
※ 高額医療・高額介護合算制度の上限額は加入する医療保険や所得段階によって異なります。詳しくは加入する医療保険の保険者または市区町村にお問い合わせください。
どういう場合に合算制度を使うと有利なんでしょうか?
入院が多い年や、介護と医療の両方で費用がかかっている場合に特に有効です。たとえば、高額介護サービス費を受け取った後でも自己負担がかなり残っており、医療費も別途かかっている場合は、年間で合算した額が上限を超えれば合算制度でさらに還付が受けられます。「毎月の介護費用が高額で、入院もした年」は両方の申請を検討してください。
- 計算期間は8月1日〜翌年7月31日の1年間で、期間をまたいで計算することはできません
- 高額介護サービス費・高額療養費が支給された後の「残りの自己負担額」を合算します(二重に計算するわけではありません)
- 申請先は、加入する医療保険の保険者(会社の健康保険組合など)か、市町村国保・後期高齢者医療の場合は市区町村になります
- 介護保険と医療保険で保険者が異なる場合でも合算できます。窓口でご確認ください
次の一歩
制度の仕組みがよくわかりました。まず自分の所得段階を確認して、市区町村の窓口に相談してみます。他に関連して調べておくべきことはありますか?
「月額上限の範囲内に収めるためにどれくらい費用がかかるか」を把握しておくと、ケアマネジャーとのサービス調整がしやすくなります。介護費用の平均や自己負担割合の確認もあわせておすすめします。
さっそく介護保険課に電話して、過去の分もさかのぼって申請できるか確認してみます。
高額介護サービス費は申請しないと受け取れない制度です。利用しているサービスの自己負担が所得段階の上限に近い、または超えているかもしれないと感じたら、まずは市区町村の介護保険窓口かケアマネジャーに確認してみてください。過去2年分はさかのぼって申請できます。